作品紹介

gallery

幼い頃、家で絵を描くことが好きだったイヴ・サンローランは、絵本の装丁や挿絵を手掛けた後、ファッションに情熱を傾けるようになりました。
1953年、17歳でパリに渡り、コンクールのドレス部門で入賞したことをきっかけに、クリスチャン・ディオールのアシスタントに抜擢されます。1957年にクリスチャン・ディオールが急逝した後、21歳の若さでディオールのチーフデザイナーを務めることとなりました。1958年にはディオールで最初のコレクション「トラペーズ*・ライン」を発表し、後継者として熱狂的に迎え入れられます。
*トラペーズ=台形

「品行方正」シャツ・ドレス
イヴ・サンローランによるクリスチャン・ディオールの1958年春夏「トラペーズ・ライン」オートクチュールコレクション
プロトタイプ
ウール
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

ディオールで6つものコレクションを手掛け、デザイナーとして成功を収めた後、1961年にピエール・ベルジェらと共にオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を設立。翌年に発表された初のコレクションでは、船乗りの作業着に着想を得たピーコートなどを発表し、大きな注目と賞賛を浴びました。

ボーティング・アンサンブル ファースト・ピーコート
1962年春夏オートクチュールコレクション
顧客のための仕立服 アトリエ・ジョルジュ、アトリエ・パラ
ウールのピーコート/シャンタンのブラウスとパンツ
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

イヴ・サンローランの代名詞的存在となったデザインの中でも特に革新的だったのは、紳士服からヒントを得て作られたタキシードやジャンプスーツ、サファリ・ルック、トレンチコートなどです。彼は、紳士服のカットの美しさ、快適さ、実用的な側面を維持しつつ、シンプルさとエレガンスを組み合わせた女性のシルエットを生み出しました。これらの作品の発表は女性解放運動が興隆した時期と重なっていたこともあり、時代の空気と呼応したスタイルは、人気を不動のものにしました。そのほか、ネイビールックなど女性らしくアレンジが施された服装も手掛けました。

ファースト・サファリ・ジャケット
1968年春夏オートクチュールコレクション
プロトタイプ(コレクションでは発表せず)
コットンギャバジンのサファリ・ジャケットとバミューダ・ショーツ
© Yves Saint Laurent © Sophie Carre
ジャンプスーツ
1968年秋冬オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・ジョルジュ
ウール・ジャージー
© Yves Saint Laurent © Sophie Carre

イヴ・サンローランの作品は、織工、染色、捺染、刺繍、金細工、銀細工など、多くの熟練した職人たちによって支えられていました。長年にわたって受け継がれてきた技術を持つ職人たちと密接な関係を保つことで、展示作品に見られるように極めて精緻なデザインを実現可能にしました。彼の厳格なまでの完璧主義は、一つの作品を完成させるのに、何百時間もの作業を必要としました。

イヴニング・アンサンブル
2000年秋冬オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・アラン
雄鶏の羽のケープ/パン絹ベルベットのドレス
© Yves Saint Laurent © Nicolas Mathéus

「これまで経験したもっとも美しい旅行は、リビングのソファでの読書を通じたものだった」

─イヴ・サンローラン

彼は読書や美術作品の収集によって想像を巡らせる「机上の」旅を通じて、モロッコ、サハラ以南のアフリカ、ロシア、スペイン、アジアといった遠い土地へ抱いた幻想をデザインで表現しました。やがて、鮮やかな色彩や独特な形によって表された「異国情緒」は、イヴ・サンローランの作品にとって不可欠な要素になりました。

アンサンブル
1989年春夏オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・ギャビー
刺繍入り絹ガザルのケープ/絹シフォンのドレスとベルト
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger
イヴニング・ガウン
1976年秋冬「オペラ・バレエ・リュス」オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・エステル、アトリエ・ジェルマン
プリント入り絹シフォンのブラウス/モアレと絹ベルベットのスカート
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

キャリア全体を通じて、イヴ・サンローランはヨーロッパの様々な時代に特徴的な装いを自身のデザインに取り込みました。古代ギリシア・ローマ彫刻がまとっているようなドレスや、中世の装いを思わせるガウンなど、幅広い時代のスタイルを自在にデザインソースとしていることから、過去の服飾の歴史に敬意を払いながらも、自由な創造性を発揮していることがわかります。

イヴニング・ガウン
1995年秋冬オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・アルレット
刺繍入り絹サテン
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

「アクセサリーは衣服を、そして女性を変容させる。」

─イヴ・サンローラ

アクセサリーはイヴ・サンローランの表現にとって非常に重要な要素でした。天然の真珠や宝石に固執することなく、木材、金属、ラインストーン、ビーズなどのイミテーションを多用することで、素材の無限の組み合わせを可能とし、想像力と表現の幅を広げていったのです。

ヘアピン
1996年、2000年春夏オートクチュールコレクション
ゴールドメタル、人工珊瑚、ガラスと合成ビーズ
© Yves Saint Laurent © William Bibet
ネックレス
1983年春夏オートクチュールコレクション
ゴールドメタル、ガラスペースト、ラインストーンとバロックビーズ
© Yves Saint Laurent © William Bibet
ブローチ
1979年秋冬オートクチュールコレクション
シルバーまたはゴールドメタル、ラインストーンとカボション
© Yves Saint Laurent © William Bibet
イヤリング
1988年春夏オートクチュールコレクション
シルバーとゴールドメタル、セラミック塗装と磨かれた黒檀
© Yves Saint Laurent © William Bibet

生きた芸術に魅了されたイヴ・サンローランは、演劇、バレエ、ミュージックホール、映画などの衣装を数多く制作しました。色彩や素材を駆使した絵画的手法と、綿密で生き生きとしたコントラストの強い線から伝わる描画の才能は、本展で展示されるスケッチに色濃く表れています。

演劇『双頭の鷲』王妃の寝室のためのセットスケッチ
原作:ジャン・コクトー 監督:ジャン=ピエール・デュソー
会場:アテネ座ルイ・ジュヴェ、パリ 1978年 サインペン/紙
© Fondation Pierre Bergé – Yves Saint Laurent
演劇『フィガロの結婚』アルマヴィーヴァ伯爵の衣装スケッチ
原作:ボーマルシェ 監督:ジャン=ルイ・バロー 会場:オデオン座、パリ 1964年
インク、グアッシュ、パステル/色紙
© Fondation Pierre Bergé – Yves Saint Laurent

イヴ・サンローランは、オランで過ごした少年時代から演劇や舞台に夢中になりました。カトリーヌ・ドヌーヴ主演の映画『昼顔』やジャン・コクトーの演劇『双頭の鷲』、ローラン・プティが芸術監督を務めたミュージックホールなど、生涯を通して様々な演劇や映画の衣装を手掛けています。

ジャケット
1977年に行われたジジ・ジャンメールのショー
『ローラン・プティのショーに登場するジジ』のためのデザイン
監督:ローラン・プティ 会場:ボビーノ劇場、パリ
絹サテン/キジとダチョウの羽
© Yves Saint Laurent © Sophie Carre
女王のドレス(第1幕)
1978年に行われた演劇『双頭の鷲』のジュヌヴィエーヴ・パージュのためのデザイン
原作:ジャン・コクトー 監督:ジャン=ピエール・デュソー
会場:アテネ座ルイ・ジュヴェ、パリ
型押しの絹ベルベットとカット絹ベルベット/パスマントリー
© Yves Saint Laurent © Sophie Carre

イヴ・サンローランは画家や作家など多くのアーティストたちと交流し、彼らの才能へ敬意を払った作品を多く発表しました。特にピカソ、マティス、ブラック、ファン・ゴッホ、ボナールといった過去の画家への強い尊敬と親愛の念は、作品の中でも表現されました。美術作品とファッションの融合は、伝統的なオートクチュールの世界に新風を吹き込んだのです。

イヴニング・ガウン─パブロ・ピカソへのオマージュ
1979年秋冬オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・エステル
チュール/刺繍入りの絹サテン、ファイユ、タフタとベルベット
© Yves Saint Laurent © Nicolas Mathéus
イヴニング・アンサンブル─ジョルジュ・ブラックへのオマージュ
1988年春夏オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・ジャクリーヌ
刺繍入り絹ガザルのケープ/絹サテンのドレス
© Yves Saint Laurent © Nicolas Mathéus

オートクチュールのファッションショーに欠かせないのがフィナーレを飾るウエディングドレスです。イヴ・サンローランは、19世紀の終わりから続く伝統的なガウンの形式と、新しい女性像として斬新なデザインの両方を展開しました。

ウエディング・ガウン
1999年春夏オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・コレット
ルレックス入り絹ガザル
© Yves Saint Laurent © Nicolas Mathéus
「バブーシュカ」ウエディング・ガウン
1965年秋冬オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・エステル
ウールのニット/絹サテンのリボン
© Yves Saint Laurent © Alexandre Guirkinger

1963年の来日をきっかけに、イヴ・サンローランは日本の文化や伝統工芸品に魅せられ、その後の創造にも多くの示唆を与えました。一方、彼が発信するスタイルは、日本のファッションやデザインの世界にも様々な影響を及ぼすものでもありました。本章では、イヴ・サンローランと日本の関係を、資料を通して紐解きます。

イヴニング・ガウン
1963年春夏オートクチュールコレクション
プロトタイプ アトリエ・エステル
刺繍入りオーガンジーのトップ/絹サテン、ファイユのスカート
© Yves Saint Laurent © Nicolas Mathéus
初来日時のイヴ・サンローラン、1963年4月 © Droits réservés

作品リスト

以下のリンクより作品リストのPDFをご覧いただけます。